2018/02/03

泉鏡花 『高野聖』

凄絶だったのはやはり、旅僧が山路で遭遇した、あの光景。
凡そ人間が滅びるのは、地球の薄皮が破れて空から火が降るのでもなければ、大海が押被さるのでもない、飛騨国の樹林が蛭になるのが最初で、しまいには皆血と泥の中に筋の黒い虫が泳ぐ、それが代がわりの世界であろうと、ぼんやり。(pp.29-30)
こう悟ったのは、聖が語っている今なのか。はたまた、まさに蛭地獄に見舞われ、脳裡に最期の予感が「ぼんやり」と閃いたその瞬間だったのか。それにしても、この一文に、黙示録の世界が垣間見えたのは、気のせいか。

聖が「邪慳らしくすっぱり」と法衣を脱がされ、妖女に背中を流してもらう描写も、凄まじかった。「婦人(おんな)」の艶やかな手のせいか、不思議な流水のせいか。とにかく、これは性の境界など越えた官能の極致なのだと、ぼんやり。

泉鏡花 『高野聖』新潮文庫・岩波文庫・角川文庫

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