2019/10/05

ピエール・ド・マンディアルグ『すべては消えゆく』

ひさしぶりのマンディアルグ。最後に書いた小説だという。エロスの面はもちろん、「あたかも虫眼鏡で眺めたかのごとき細密描写」(澁澤龍彦)を堪能した。主に視覚にもとづいて外部の世界を丹念に描写するのではなくて、『大理石』や『海嘯(満潮)』にも見られるように、厳選した言葉、稠密な文体そのもので様々なオブジェを内部の世界に構築していこうとする雰囲気が、やはりマンディアルグを読むことの醍醐味だろうか。心理描写はないようで、主人公の感情の変化が読み取れるのも面白い。短編「アディーヴ」(『海嘯』に収録)にも似た地下鉄の冒険も楽しかった。

通勤電車のなかで、しばらくこの小説を読み進めていたのだが、「マンディアルグだと? なんと破廉恥な」などと見咎めるような興趣など世間にはありはしないのに、とはいえ、やはり公衆の面前で読むにふさわしいものでもなく(それはモラルなどという陳腐な問題ではないのだが)、降りる際には、一人赤面しながら本をそっと鞄のなかに戻すのだった。

〔余談〕
本作も『余白の街』や『オートバイ』のように、1987年に『愛の儀式 Cérémonie d'amour』(邦題は「愛の化身」)のタイトルで刊行まもなくに映画化されている。

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『すべては消えゆく』
中条省平訳(白水社)
André Pieyre de Mandiargues, Tout disparaîtra, 1987

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