泉鏡花『冠弥左衛門』『黒猫』ほか

『泉鏡花集成』の第1巻は初期作品を収めたもので、なかでも「冠弥左衛門」は作家のデビュー作だそう。

自分の知っている鏡花作品とは少し異なった趣で。それまで読んだものといえば、例えば、誰だか知らない者同士の会話で幕が開け、美文の連なりを追っていくうちに、登場人物の姿や場所がようやく判明してくるような展開がしばしば。一方、ここで読んだのは、講談師か活弁士が今にも出張ってきて威勢よく物語りはじめるような。

とはいえ、浮かび上がってくる人物の様相とか、現実が舞台なのに油断すると異界に足を踏み入れてしまう、そんな雰囲気が感じられるのは、鏡花小説すべてに通ずる精髄か。否、たんなる思い込みか？　

娯楽としては「黒猫」がいちばん良かった。「義血侠血」は相場通り、初期の傑作と呼ばれるにふさわしい美しさ。賛同は少ないかもしれないが、「Ｘ蟷螂鰒鉄道」も味わいがあって気に入った次第。

【収録作品】

• 活人形
• 金時計
• 予備兵
• 義血侠血
• 夜行巡査
• 鐘声夜半録
• Ｘ蟷螂鰒鉄道
• 黒猫
• 外科室　
• 冠弥左衛門

『泉鏡花集成 1』種村季弘編（ちくま文庫）