2015/05/23

シュオッブ『モネルの書』

他人にとっては取るに足らないものに興味が向く。ささやかで見過ごしがちなものに美しさを見出す。いつもの教室、いつもの職場、そこへ向かういつもの通り道、通勤電車の中でさえ、目をあけた途端に好奇の対象が飛び込んでくる。そのように感受性が豊かなのは、子どもだけの特権であり、大人になると涸れてしまうものなのだろうか。

一方で、青春期を目前にした少年少女において、感受性が一つの臨界点に達するという考えも、あながち間違いではない、『モネルの書』に登場する少女たちのように。

もう子どもではない小説家の描く美しく繊細な世界は、彼自身の過去から引き出された憧憬の数々なのか。それとも、遠く過ぎ去った少年時代に負うところが大きいのは無視できない事実であるとしても、やはり執筆の瞬間あるいはその直前にもたらされたもの、今の彼が鋭敏に感じ取ったものに由来するのだろうか。

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来月、国書刊行会からようやくシュオッブの翻訳全集が刊行される。普段、書籍にこんな高い買い物はしないのだけど、今回だけは奮発してみよう。(2015年5月現在)


マルセル・シュオブ『モネルの書』(シュオブ小説全集第五巻)
大濱甫訳 (南柯書局)
Marcel Schwob, Le Livre de Monelle (1895)

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