このままつづけていくことは無理だった。人間は飲まず食わずでも長いこと生きられるという。誇りなしに生きていくことのほうがはるかにむずかしいが、その自尊心を妻に奪われてしまったのだ。だんじて妻を許せない。 (p.129)
シムノンの小説には、運命に翻弄される男たち(それも仕事や家庭に疲れた男ども)がよく主人公として現れる。彼らは常に状況に甘んじているわけではなく、自分なりに事態を解決しようとしたり、運命に抗おうとする。しかしそういった試みは、ある時点から自分たちの力では制御できなくなる。しかも彼ら自身がそれとは気づかずに事態が進むケースが多い。その結末はたいてい...
『日曜日』のエミールはそういった男たちに比べると三十歳手前でまだ若いのだが、徐々に外堀を埋められるように、妻に姑に人生を支配されていく。その様子は「運命に翻弄される男たち予備軍」であり、片足を突っ込んでいる。果たして、実際にそうなのか、意志の弱い彼がただ自分でそう感じているだけなのか。どちらにせよ、小説では南仏の明るい陽射しの下、エミールの焦燥、怒り、徐々に膨らむ反抗心が切々と描かれる。そして、カンヌに観光客の第一陣が押し寄せてくる季節の日曜日、戦慄せざるを得ない形で事態は一気に収束する。
〔画像〕オランダ語版の表紙(ディック・ブルーナによる装丁)〔参考〕
- シムノンの「運命の小説」一覧
- (人物事典)ジョルジュ・シムノン in Le Blog Sibaccio
ジョルジュ・シムノン『日曜日』生田耕作訳(集英社)
Georges Simenon, Dimanche, 1959
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