小説は、被告と思しき男が予審判事に宛てた手紙という形で展開される。
無実や減刑を哀訴するのではなく、自分がなぜ殺人を犯すまでに至ったのか。自身の半生を振り返りながら、裁判という場では決して解き明かすことのできなかった男の心理、意識、感情がきめ細かく物語られる。
読み進めるとすぐに彼が何者であるかが分り、誰を殺したのかもおおよそ見当はつくのだが、問題はあくまで、なぜ殺したのかに収斂する。
はじめは内気な大男の単なる独白であったのが、異常な形ではあれ、至純の、あるいは完全なる愛を追求しようとした男女の様相が次第に浮かび上がってくる。これはもう、犯罪小説というよりは凄まじいまでの恋愛ロマンだと感じた。
〔画像〕オランダ語版の表紙(ディック・ブルーナによる装丁)
〔参考〕
- シムノンの「運命の小説」一覧
- (人物事典)ジョルジュ・シムノン in Le Blog Sibaccio
ジョルジュ・シムノン『判事への手紙』那須辰造訳(早川書房)
Georges Simenon, Lettre à mon juge, 1947
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