2016/03/19

斎藤広信『旅するモンテーニュ』

モンテーニュは自分自身を描き、『随想録』の材料は彼自身であった。そのモンテーニュが1580年から81年にかけて、イタリア〔ローマ〕へ旅をした。スイス、ドイツ、オーストリアを通ってイタリアに入り、各地を巡り、また滞在をしている。300年前のイタリアを記述する文献はさまざまあるが、モンテーニュの観察は鋭くもあるし、好奇心も強く、この旅のその日の出来事や見聞を綴った日記は興味深い記事に満ちている。この日記は公刊を目的として書かれたものではなく、没後180年経ってから、いろいろの反古類と共に偶然発見されたものである。
串田孫一「御馳走の記録」『Eの糸切れたり』(平凡社)所収

モンテーニュの『旅日記』は斬新奇抜な事物に溢れているわけではなく、何月何日どこそこに到着して、何々を見聞して、何日に出発した、といった記述がひたすら続いているだけのようにみえる。

『旅するモンテーニュ』を読むと、モンテーニュという人物や『エセー(随想録)』をあまり知らずとも、時代背景や、旅先がどんなところなのか、当時と今との違い、『エセー』との関連などを解説してもらいながら、モンテーニュの道のりを一緒に辿ることができる。
そうして改めて『旅日記』を読み返してみると、一見ささいな記述が面白くなったり、モンテーニュの観察眼に感心できるようになったりする。チロルの美しい風景に心打たれる場面などを読むと、モンテーニュが近代的なツーリストの元祖と目されるのもうなずける。
道草したり、知らない土地を歩きまわって、その変化と多様性を楽しむモンテーニュ、「旅をするのが面白くてたまらない」と語るこの旅人は、まさに〈ツーリスト〉と呼ぶにふさわしい。(p.96)

なお『旅するモンテーニュ』ではもう一つ、興味深いテーマを取り上げている。モンテーニュの旅と『エセー』の出版とのあいだには深い関係があるらしいということだ。これはぜひ、本書の第七章「帰国後のモンテーニュ」を読まれたい。

〔参考〕
  • 『モンテーニュ全集8 モンテーニュ旅日記』関根秀雄・斎藤広信訳(白水社)

斎藤広信『旅するモンテーニュ 十六世紀ヨーロッパ紀行』(法政大学出版局)

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