2016/05/06

ビュトール『心変わり』

悲嘆に暮れ欺かれたふたりの女がきみを圧しつぶすことだろう。同盟を結んだふたりの女はきみを打ち破り、きみは廃墟と化し、生命の外見を保ったまま、無意味で醜悪な仕事をはたしつづけるにすぎぬ屍体と化してしまうことだろう、ふたりの女は、彼女たちの希望と荒廃と、きみの愛の虚偽の上で、憎しみを抱きながら声もなく泣くことだろう。

現在・いくつもの過去・さまざまな可能性の未来など、『心変わり』という小説には時間軸が何本も走っており、一見複雑な構成で組み立てられているようにみえる。行間の空白が強調する断章的な構成、動詞の活用のたくみな使い分けなどによって、時間が自在に移動する。空間も、時間に合わせてパリとローマの間を行ったり来たりする。とはいえ、中心軸はあくまでも(小説のなかの)現在、パリからローマへと向かう列車の中である現在には変わりない。

さまざまな時間によるこれらの断章を、活字の色分けで区別してみたら、面白いだろうと思った。たとえば現在は黒で、過去は赤の系統、未来は青の系統で表してみるなど。


ミシェル・ビュトール『心変わり』清水 徹訳 (岩波文庫)
Michel Butor, La modification, 1957

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