2016/05/13

フランス『神々は渇く』

 裁判所は今や四部に分かれ、各部に十五人の陪審員が配されていた。牢獄には囚人があふれ、訴追官は日に十八時間も仕事をしていた。軍隊の敗北に、地方の暴動に、陰謀に、策動に、裏切りに、国民公会は恐怖政治をもって対抗していた。神々は渇いていたのである。(p.122)
善良な意図も節度なく行われると、人々をはなはだ不徳な行為に押しやるということは、我々が始終見るところである。(モンテーニュ『エセー(随想録)』第2巻第19章より、関根秀雄訳) 

フランス革命が主題の歴史小説。舞台は1793年の春から1794年末の頃までのほんの短い期間(*)だが、フランス革命に詳しい人にとっては読み応えのある作品ではないかと思う。主要な登場人物はすべて架空の人々であるが、実在の人物の名も次々と出てくる。とくにロベスピエール (Maximilien François Marie Isidore de Robespierre, 1758-1794)は、主人公によって何度も言及されるばかりか、本人が、恐怖政治の象徴としてではなく、一人の人間として目撃される。小説は綿密な史料調査に基づきながらも、見事な人間ドラマに仕上げられている。

アナトール・フランスを読むたび、「忘れられた作家」というレッテルが貼られ続けるには、あまりにもったいない文豪だなあと思う。

(*) 前年に国民公会が成立し、ルイ16世やマリー・アントワネットの処刑を経て、ロベスピエールによる粛清と恐怖政治が展開された時期。小説はテルミドール反動によって収束し、その後の一場面が描かれて閉じられる。

アナトール・フランス『神々は渇く』
大塚幸男訳(岩波文庫)
Anatole France, Les Dieux ont soif (1912)

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