2016/06/17

シムノン『帽子屋の幻影』

(小説のイントロダクション)
舞台はフランス大西洋岸の港町ラ・ロシェル。晩秋から冬にかけて雨が降りしきる時候。主人公のレオン・ラベは町の名士の一人で、家業を継ぎ長年帽子屋を営んでいる。十五年来、病身で家に引き蘢っている妻マチルドがいる。もう一人重要な存在が、帽子屋の隣家で仕立屋をしているカシウダス。彼がある出来事を目撃することで... 

翻訳は昭和31年(1956)で、当時は「シメノン」の表記。1982年にクロード・シャブロルが映画化している。犯罪小説ではあるけれど、商業的な成功をもたらすメグレ警視シリーズの傍らでシムノンがより真摯に執筆したという「硬派の小説」の一つにも数えられる逸品だと思う。

ちなみに、『帽子屋の幻影』は、先に書かれた短篇『しがない仕立屋と帽子商』(現在は『メグレとしっぽのない小豚』所収)の長篇バージョン。短篇のほうは1949年に『幸福なるかな、柔和なる者 Blessed Are the Meek 』のタイトルで英訳がエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジンに掲載され、懸賞で一等賞を獲得している。おそらくこれを機会に、本作のように書き直したのだろう。細部はもちろん、結末も異なっているような...

〔画像〕オランダ語版の表紙(ディック・ブルーナによる装丁)

〔参考〕


ジョルジュ・シムノン『帽子屋の幻影』秘田余四郎訳(早川書房)
Georges Simenon, Les Fantômes du chapelier, 1949

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