2016/10/22

マルタン・デュ・ガール『チボー家の人々』 (2)

『チボー家の人々』はもはや、読まれない名作なのだろうか。

『チボー家の人々』が日本で初めて紹介されたのは、1938年(昭和13年)。太平洋戦争をはさみ、1952年(昭和27年)に全篇邦訳が完了した。その後も『チボー家の人々』は戦後世代の若者の共感を呼び、一大ベスト/ロングセラーとなった。《サキコの母》も、全篇が刊行された後に思春期を迎え、『チボー家の人々』をむさぼるように読んだのにちがいない。当時は、単行本のサイズで黄色い装丁が特徴だったらしい。(詳細は第一巻《灰色のノート》の「訳者あとがき」を参照)

ところで、《サキコ》が小学生の頃、町の図書館で本を借りる際はまだ、本に添付の貸出しカードを図書館に預け、本には返却の期日を刻んだスタンプを押してもらう仕組みだった。

つい先日、図書館から借りてきた新書判『チボー家の人々』のうち、一冊は1984年(昭和59年)発行のもので、それには今ではもう使われない期日スタンプの刻印表が、最後のページに、名残り惜しそうにくっついていた。画像はその一枚。表はスタンプでぎっしり。日付の間隔を比べてみると...。日付が近いのは、同じ人がつづけて借りたのかもしれない。数ヶ月たって、また貸し出されている。スタンプの色違いには、何か意味があるのだろうか...。最初の日付(「59. 11. 29」だった)から大ざっぱにみてゆくと、一年に延べ四、五人は借りている計算。ちなみに、最後のスタンプは「2. 9. 25」。1990年(平成2年)を境に、貸出の管理がコンピュータシステム化されたのだろう。

とにかく、その当時もコンスタントに借りられていたことがうかがえる。抜群の人気を誇るわけでもないけれども、『チボー家』は「読まれる名作」として知られていたのだ、と見てもよさそうだ。

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ロジェ・マルタン・デュ・ガール『チボー家の人々』山内義雄訳 (白水社)
Roger Martin du Gard, Les Thibault (1922-1940)

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