三つの短篇を収めた作品集。いずれもユルスナール二十代の頃に書かれたものだが(解題によれば、1927年から1930年にかけて執筆)、一つだけ未発表のままに遺された。それが表題となっている《青の物語》。
「彼女は何か秘密が明かされるのを人生に期待するほど、本当に単純なのだろうか。人生が私たちにもたらすのは絶え間ない繰り言だけだというのに。(p.27)」... 心の機微をもっとそっけなく(でも端的に)もっと灰色がかった雰囲気に包んだら、ジョルジュ・シムノンの小説に似ているかもしれない、などとぼんやり。このようなテーマはいつの時代にも魅力的で、繰り返し書かれても良いと思う。
《呪い Maléfice 》
冒頭でやや性急に舞台装置が準備される。時代の設定は執筆された頃からあまり遠くないようだ。小説による指定を少々無視して(たとえば自分の生まれる一昔前を想像してみるなど)、時代を読者の側に引き寄せて読んでみると、魔術がもっと近しいものとなり、慄然とするかもしれない。
《青の物語 Conte bleu 》
数年前『東方綺譚』とあわせて読んだのだが、そのときはたいして感心もしなかった。どうやら『東方綺譚』があまりに輝かしく、目が眩んでいたようだ。だが、改めて読んでみると、《青の物語》にもあなどれない誘引力があることに気づいた。もしも、《青の物語》がユルスナールの作だと分からないまま(あるいは名を伏したまま)世に出たとしても、一見静謐な雰囲気の中で、翻弄される登場人物たちの様相は、多くの人の心をとらえたのではないかと。
このような短篇集をいつも鞄の奥に忍ばせておきたい。日々の曇天から遁れ、陽に映える広い海を見たくなったとき、鞄からそっと取り出す... そんな気取ったことをやってみたい。
マルグリット・ユルスナール『青の物語』吉田加南子訳(白水社)
Marguerite Yourcenar, Conte bleu, Le Premier soir, Maléfice (1993)
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