サンペ Jean-Jacques Sempé, 1932-2022 は『プチ・ニコラ Petit Nicolas 』の挿絵を描いた人(物語を書いたルネ・ゴシニー René Goscinny, 1926-1977 のほうは、バンド・デシネの超ロングセラー『アステリクス Astérix le Gaulois 』のシナリオ作家としても知られる)。イラストレーションにくわえて、サンペ自身が文章を付けた作品も数多く、そのほとんどは今、フランスで最も有名な文庫シリーズ Folio から出版されている。
『マルスラン・カイユー Marcellin Caillou 』もその一つ。マルスラン(マルセラン)という名の小学生が主人公の物語である。読者の対象年齢は8歳以上とある。マルスランもきっとそのくらいの年齢なのだろう。つまり、自分にはどこか他人とはちがうところがあるのではないかと気づき、子どもによってはそれが悩みの種となる、そんな年頃ではないかと思う。
「マルスラン・カイユーはほかの子供たちと同じようにとても幸せだとよかったのだけれど。残念ながら、彼は一つ風変わりな病気 une maladie bizarre に悩まされていた。それというのも、彼は何かにつけて、顔が赤くなってしまうのだった。」
物語にはマルスランとならんでもう一人、ルネ・ラトーという子が登場する。「鋭敏なヴァイオリニストで、学校でも優れた生徒だった彼は、小さい頃から奇妙な病気 une maladie curieuse に悩まされていた。彼はしょっちゅうくしゃみをしていたのだ。一度も風邪をひいたことがないのにもかかわらず...」
『プチ・ニコラ』の子供たちは、ニコラを筆頭にいたずら好きのわんぱく坊主ばかりだけれど、『マルスラン・カイユー』では、子どもの別の側面がクローズアップされる。サンペ自身がどんな幼少時代を過ごしたのかは知らないけれど、この物語には『プチ・ニコラ』以上に、作者自身の像が投映されているのかもしれないと思うほど、その眼差しは温かい。
個性の時代、多様性の時代などといいながら、何となくみんなと同じじゃないと不安という風潮や心性は、変わりなくあると思う。でも、マルスランとルネを見ていると、そして物語に出てくるほかの「風変わりな」子供たちをみていると、世の中はやっぱり十人十色であって、それは言葉以上に重要な事実であり、当たり前のことと流してしまうのではなく、常にしっかりと心に留めておくべきことだなあと思ったりする。
ちなみに、この作品には、人と人との関係のなかでもっと大事なメッセージがこめられていると思っていますが、それは核心でもあるので、ここでは触れません。
ちなみに、この作品には、人と人との関係のなかでもっと大事なメッセージがこめられていると思っていますが、それは核心でもあるので、ここでは触れません。
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2022年夏、ジャン=ジャック・サンペは南仏ドラギニャンで亡くなった。あと数日で90歳の誕生日を迎えるところだった。
ジャン=ジャック・サンペ『マルセランとルネ』谷川俊太郎訳(リブロポート)
Jean-Jacques Sempé, Marcellin Caillou, Gallimard, 1969
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