2017/10/28

シムノン『小犬を連れた男』

ぼくは悲しくもないし、郷愁もない。ぼくがあるがままに物事を見る、カメラの冷酷なレンズのように。それに、僕は情け容赦なく、仮借なく自分自身を見つめる。 (p.21)

主人公のフェリックス・アラールはパリ3区のアルクビュジエ通り3番地のアパルトマンに、プードル犬のビブと暮らしている。仕事場である書店も、アルクビュジエ通り東側の突き当たり、ボーマルシェ大通り沿いに構えている。こんなふうに、シムノンの小説では、実在の地名が物語にそのまま登場する。パリが多い。実際にある通りや広場が舞台なのに、小説として保つべき虚構性が減殺されることもなく、そのままの魅力を保つことができるのは、もしかしたらパリぐらいなのではないか?

冒頭の引用は、小説の初っぱなで主人公が吐露する一節。学習ノートに自分の心情をつづってゆくという、一人称の形式で語るのだが、三人称が常套のシムノンには珍しいかも? とにかくこの言葉は、作家自身の執筆態度をそのまま反映しているように思う。

(アラールが書いた2冊のノート)おそらく1963年と推測される。
  • 青色のノート
    • 11月13日 水曜日
    • 11月15日 金曜日
    • 11月16日 土曜日 午前2時
    • 11月17日 日曜日 午前11時
  • 黄色のノート
    • 11月18日 月曜日 夜の9時
    • 11月20日 水曜日 夜の10時
    • 11月21日 木曜日
    • 11月25日 月曜日
  • 《三面記事》 パリ、1月13日

〔画像〕オランダ語版の表紙(ディック・ブルーナによる装丁)

シムノン『小犬を連れた男』長島良三訳(河出書房新社)
Georges Simenon, L'homme au petit chien, 1963

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