2018/11/10

ラクロ『危険な関係』

『危険な関係』の解釈はさまざまで、エロティシズムあるいは悪徳の讃歌という読まれ方が多くなされるが、むしろ最高のフェミニズム小説だと思う。その理由は、作中で群を抜いた洞察力をもつこのヒロイン[メルトゥイユ侯爵夫人]の造形にある。一見、嫌悪を催させる怪物的人物だが、軍人である作者は少しも同情をまじえず、したたかな誘惑戦術を駆使して男女の戦いを闘う女として描ききり、彼女の敗北の背後に社会そのものを見据えている。
(小西嘉幸、『フランス名句辞典』より)

ラクロの『危険な関係』を読んだ。最初は物事が遅々として進まない印象だったのが、辛抱して読み続けるうちに段々と、これは凄まじい小説だと気づいた。非道な恋愛ゲームというのは確かに魅力的なテーマ。それ以上に、情景描写もなく人びとの関係も実はあまり明らかではないのに、手紙のやり取りだけで、端的には説明されない事柄や関係、心情、そして情景さえも読者に強く・確実に伝えてくる力(それはあくまで「エネルギー」だとか「ベクトル」のようなものであって、明確な「情報」ではない)に圧倒された。


小説よりも先に、ジェラール・フィリップ(ヴァルモン子爵)とジャンヌ・モロー(メルトゥイユ侯爵夫人)が主演した映画を観たのだけど(何と作家のボリス・ヴィアンも出演している!)、そのときはフィリップの美貌とモローの毅然とした美しさに見惚れる以外、さほど感心しなかった。改めて思い返してみると、時代設定をただ移し替えるだけでなく、小説をよく読み込んで制作したのだと思う(監督と脚本はロジェ・ヴァディム)。

とはいえ、やはり書簡の体裁だからこそ、肌に刺すように浮かび上がってくる「危険な関係」なのかなとも。くどいけれど、『危険な関係 』はまったく物騒で凄まじい小説である。

〔参考〕
  • 田辺保編『フランス名句辞典』(大修館書店)
〔画像〕
  • 映画『危険な関係』の主演ジャンヌ・モロー(右)とジェラール・フィリップ。

ピエール・ショデルロ・ド・ラクロ『危険な関係 』竹村猛訳(角川文庫)
Pierre Choderlos de Laclos, Les Liaisons dangereuses (1782)

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