つまり、すぐれた料理人がたった一つの食材からさまざまな味の料理をつぎつぎと作り出してみせるように、限られた材料をを使って九九通りの異なった「書き方」を実践してみせたものがこの書物というわけである。「訳者あとがき」より
くのおハ仏蘭西人デ仏蘭西語ヲ母語トシタ人デス。一見奇天烈ナ仏蘭西語ヲ用ヒテ、摩訶不思議ナ世界ヲ創ロウトシタ人デアリマス。トイフコトハ、くのおノ苦悩ヲ外国語ニ苦労シテ翻訳シタトシテモ、ソノ世界観ヲワタクシタチ日本ノ読者ニモレナク伝ヘルナドトイフコトハ、至難ノ業トイフカ骨折リ損ノクタビレマウケデハナイカト思ヘルノデス。ツマリ、原語ヲ通サネバ作品ヲ理解スルコトハデキナイ、トイフ意見デス。
トコロガ朝比奈氏ハ『文体練習』ニヲイテ、コノヤウナ翻訳ガ許サレルノカト思フホドニ、ソノ訳業ヲ達成サレテヰルノデアリマス。くのおノ見ツケタ言葉ノ《ズレ》《裂ケ目》ニ対シテ、くのおノ助ケヲカリツツモコレヲ媒介トスルコトナク、マルデ日本語ノ側カラ直ニあぷろおちシテヰルカノヤウデス。朝比奈氏個人ノ優レタ言語的感性(せんす)ガ成セル業トイフホカアリマセン。
日本語ヲ通ジテモナホ、外国語ノ言語実験ニコノヤウニ間近に立チ会ヘルトイフノハ、ワタクシタチニトツテ何ト幸セナコトデセウ。
レーモン・クノー『文体練習』朝比奈弘治訳(朝日出版社)
Raymond Queneau, Exercices de style, 1947
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