ドラント ぼくなんだ、ドラントは。
シルヴィア (傍白)ああ! やっぱり、心でははっきり分かってたんだわ。(第2幕第12景より)
舞台はパリ。オルゴン氏は娘のシルヴィアに、親友の息子であるドラントと見合いをさせることにします。シルヴィアは、相手の人柄を見極めてから結婚するかしないかを自分自身で判断したいため、オルゴン氏と兄マリオの諒解の下、侍女のリゼットと身分を入れ替えることにします。ところがドラントのほうもまた、同じ理由から従僕のアルルカンと役柄を交換してやってきます──オルゴン氏とマリオは実はこのことも承知済みなのですが、シルヴィアとリゼットには敢えて伝えずにいます──。
シルヴィアとドラント(実際はリゼットとアルルカン)、リゼットとアルルカン(実際はシルヴィアとドラント)、それぞれ身分を偽った二組が相対したとき、偶然にも?それぞれに恋が生まれてしまうのですが、果たしてその行く末はどうなるのか......(3幕散文喜劇)
『愛と偶然の戯れ』は、1730年(ブルボン王朝ルイ15世の時代)の初演で画期的な成功を収めたのち、今日まで繰り返し上演されてきており、フランス演劇の殿堂コメディ・フランセーズで最も多く舞台にかけられたマリヴォーの戯曲とも言われています。
マリヴォーが書いた多くの作品と同じように、本作でも登場人物がお互いに変装して──身分を偽り、心の内も隠しながら──会話が繰り広げられます。およそ現実ではありえない虚構の設定ですが、しかしそれが故に、理性と感情の葛藤、あるいは本心と打算(シルヴィアは純粋に「真実の愛」を掴むことができたと言えるのか?)といった、現実の生活であったら不都合なこととして隠したり歪めたりする心理模様が浮き彫りにされているように思います。
演出効果としてだけでなく、変装のモチーフを巧みに扱うマリヴォー。さらに、彼の肌理細かい心理描写にもならって、映画やテレビドラマなどで『愛と偶然の戯れ』を映像化したら、ずいぶんと面白いだろうなあと感じます(*)。
(*) 宝塚歌劇(星組)のミュージカル『めぐり会いは再び』は、本作を翻案したものだそう。
〔参考〕
- マリヴォーの部屋 in 咲良舎公演サイト
- (人物事典)マリヴォー in Le Blog Sibaccio
マリヴォー『愛と偶然の戯れ』鈴木康司訳
(白水社『マリヴォー ボーマルシェ名作集』所収)
Marivaux, Le Jeu de l'amour et du hasard, 1730
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