2024/11/30

ラ・ブリュイエール『カラクテール』(人さまざま)(2)

 『カラクテール』の章構成

『カラクテール』は全部で16の章で構成されています。各章は、社会を眺望し人間を観察する上での、ラ・ブリュイエールならではの立脚点・スコープでありつつ、当時のフランス社会一般の価値観の切り口とも言えそうです。今日の私たちはおそらくこのような視点で物事を見ることはあまりないでしょうが、歴史的な興味関心をもってそのまま各視点から観察を続けるのも面白いし、章の標題にはピントを合わせず気ままに眺め回したとしても、本書の魅力が削がれることはないと思います。ちなみに、岩波文庫版の翻訳は上中下の三巻にわかれており、第1章から第7章までが上巻に、第8章から第12章までが中巻に、そして第13章から第16章までが下巻に収録されています。

  1. 文学上の著作について  Des Ouvrages de l’esprit
  2. 各個(ひと)の真価(メリット)について  Du Mérite personnel
  3. 女について  Des Femmes
  4. 心情について  Du Cœur
  5. 社交界及び社交について  De la Société et de la Conversation
  6. 運の賜物について  Des Biens de fortune
  7. 町方について  De la Ville
  8. 朝廷について  De la Cour
  9. 貴顕について  Des Grands
  10. 至尊について或は国家について  Du Souverain ou de la République
  11. 人間について  De l’Homme
  12. 判断について  Des Jugements
  13. 流行について  De la Mode
  14. 幾つかの習慣について  De Quelques Usages
  15. 教壇について  De la Chaire
  16. 強き精神について  Des Esprits forts


1.文学上の著作について  Des Ouvrages de l’esprit

どちらかといえば、ラ・ブリュイエールの文学論、文芸にかかる随想といった趣きで、モラリストとしての分析・考察の影はまだ薄い。鹿島茂著『悪の箴言』ではここから5つほど引用し、著述家や批評家あるいは編集者の然るべき態度について述べている(ラ・ブリュイエールに倣ったポルトレ〔性格描写〕が挿まれている?!)。全69節。

2.各個(ひと)の真価(メリット)について  Du Mérite personnel

翻訳の注釈によれば、真価 mérite とは「真に世間の尊敬尊重に値する内在的な特質才能を意味する。」真価が認められない人間の哀しみ、真価のない人間が「大物」として跋扈する世の中への抵抗といった趣き。作者自身を重ねている? 全44節。

3.女について  Des Femmes

現代の観点からすれば違和感のある考察がいくつか見られるものの、「時代遅れになったかに見えるものが逆に時代の先端に出てきたり、あるいは面白いと思えたものが時代遅れに見えてきたりするので予断は禁物です。」(鹿島茂『悪の箴言』) 全81節。最終節は作者が得意としたポルトレ形式で、短い物語のよう。

4.心情について  Du Cœur

全85節のほとんどがラ・ロシュフコーのマクシム(格言・箴言)のように、恋愛や友愛、報恩あるいは情念などのさまざまな心情について短く端的に語っている。 

5.社交界及び社交について  De la Société et de la Conversation

社交界 société の人々、そこで交わされる会話・礼儀がテーマだが、ソサイエティを広く社会一般、自分の身の回りである世間(家族、学校、職場、友人知人、近所付き合い、暮らしのなかで交わすやりとり...)と捉えても良いと思う。全83節。

6.運の賜物について  Des Biens de fortune

「運の賜物」とはお金や名声、栄達などのことを指すそう。今ではこれらのものもすべて努力や才能で勝ち取れるものだという認識が通用しているが、必ずしもそうとは限らないことを思い出させる。賭け事もここで扱っている。それにしても、この章ではラ・ブリュイエールの執念というか憤怒が尋常ではない。全83節。

7.町方について  De la Ville

パリ市民のうち、とくにブルジョワジー(有産階級)の人々が対象で、裕福になって王侯の真似をしたがるようになった彼らをチクリと批判している。テーマとしては前章に続いているようだが、ここではわりと穏当な様子。全22節。

8.朝廷について  De la Cour

朝廷とはかの大宮殿を構えるヴェルサイユ宮廷のことで、実質上の首都であったこの場所には法服貴族や高位の聖職者、大ブルジョワジーなどが集まり、ルイ14世下に官僚を構成して権力の中枢を成していた。ここに来て、ラ・ブリュイエールの舌鋒も鋭くなってきた印象。全101節。

9.貴顕について  Des Grands

ラ・ブリュイエールが仕えたコンデ公のような王族、大貴族のこと。前章ほどではないにしても、やはり、一定の権力を有している彼らが、家柄を鼻にかけて他人を見下す有り様を厳しく批判している。全56節。

10.至尊について或は国家について  Du Souverain ou de la République

「至尊 Souverain」は君主、とくにルイ14世のこと。国王のことを賛美しつつも、君主はこうあるべきといった意見もみられる。国家(République とあるけれどここでは政体にかかわらず国一般のこと)については、民主主義を思わせる態度が垣間見られる。全35節。

11.人間について  De l’Homme

いよいよ普遍的な人間考察が活気づく。対象は同時代の人々ではあるものの、そこから導き出されたのは「時処を超えたる我々の人間性の根本を深く反省し考察している」ものと言える。おそらく、覚えておきたい格言がとくに多く含まれている章かもしれない。全篇で最多の全158節。

12.判断について  Des Jugements

ラ・ブリュイエールに限らず、モンテーニュを筆頭とするモラリストはみな判断力(=理性・悟性)を最も重視する。大小にかかわらず、物事を常に正しく判断することは難しいけれども、その積み重ねが個人の幸福、社会の最善につながるのではないか。かなり長い最終節を含む全119節。

13.流行について  De la Mode

流行を追いかける人々の醜態を諷した章。チューリップ、植物、古銭収集、髪型、服装、建物の様式、決闘...... さまざまなものの流行が取り上げられるなか、当時は信仰心までもが流行の対象だったらしいが、そういった様相は今も昔も変わらないのかもしれない。全31節。

14.幾つかの習慣について  De Quelques Usages

趣きはほかの章と似ているが、もう少し高みの視点から社会一般の習慣、それもあまり好ましくない制度や習慣、陋習を観察し批判している。全73節。

15.教壇について  De la Chaire

教壇とはとくにカトリック教会にある説教壇で、うわべだけの美辞麗句をつらねる聖職者が批判の対象。教会のありさまに心底憂うラ・ブリュイエールのお説教といえる章。全30節。

16.強き精神について  Des Esprits forts

注釈によれば、「強き精神」というのは単に独立不羈の人というより、既成の概念や因習(とくにキリスト教信仰)からの逸脱をためらわず、精神・思想の自由に重きを置く当時のリベルタンをとくに指しているそう。ラ・ブリュイエール自身は信仰心を捨てていなかった。全50節。

〔参考〕


ジャン・ド・ラ・ブリュイエール『カラクテール 当世風俗誌』
関根秀雄訳(岩波文庫)

Jean de La Bruyère, Les Caractères de Théophraste traduits du Grec avec les Caractères ou les moeurs de ce siècle, 1688-1694


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