オデュッセウスはギリシャ神話の登場人物であると同時に、とくに、ギリシャの詩人ホメロスが歌った叙事詩『オデュッセイア』の主人公として有名。長年にわたる航海、数多の冒険をくぐり抜けてきた英雄の物語は、ヨーロッパ語圏ではそのまま、「冒険物語」「波乱に満ちた旅・遍歴」「波瀾万丈の人生」といった意味にも遣われるらしい。
シムノンの『闇のオディッセー』。フランス語の原題をそのまま訳せば、熊のぬいぐるみ、テディベア。小説中に出てくる一人の若い女性に、主人公のシャボが勝手に名付けた綽名を指す。全体は、裕福な産科医であるシャボにくりひろげられる精神の変遷を辿ってゆくという筋書きで、まさしくシムノン小説の常套。「テディベア」はその中のほんの数節にしか現れない。
邦題を『闇のオディッセー』としたのには何か理由があったのだろうか? オディッセーはおそらく小説の主人公(ヒーロー・英雄)を指す。一度読んだ限りでは、シャボがオデュッセウスと重なるようには感じられなかったが、彼の茫漠にして不安定な精神状態を、いつ明けるのかも分からない「闇」に喩えたのだろうか。
〔参考〕
- シムノンの「運命の小説」一覧
- (人物事典)ジョルジュ・シムノン in Le Blog Sibaccio
ジョルジュ・シムノン『闇のオディッセー』長島良三訳 (河出書房新社)
Georges Simenon, L'ours en peluche, 1960
0 件のコメント:
コメントを投稿