2020/03/14

シムノン『モンド氏の失踪』

現実の世界では、失踪する人々はどのくらいいるのだろうか? 

日本では警察庁が毎年、行方不明者の状況を発表している(詳細は〔参考〕に掲載したリンクを参照)。これによれば、過去10年間で毎年8万人以上が行方不明となっている。これには、モンド氏のように自らの意志で失踪したと思われる人々だけでなく、事件事故に巻き込まれて消息を絶ったと思しき人々も含まれている。また、近年は認知症と見られる症状から行方不明となるケースが増加しているそうだ。

モンド氏と同じ40歳代の行方不明者は約9,000人、50歳代と合わせると15,000人弱で、全体の約10〜17%である。「家出少女」の問題がよくクローズアップされるように、年代別には10〜20歳代に行方不明者が多く、全体の40%弱。ただし、割合的にはどの年代でも男性の方が多い。

警察庁発表には、行方不明の「原因・動機」の分類も定義されている。多い順に「疾病関係(認知症原因も含む)」「その他」「家庭関係」「事業職業関係」「学業関係」「異性関係」「犯罪事故等の発覚の恐れ」と並ぶ。モンド氏の場合、どのように分類されるのだろう。「家庭関係」だろうか、それとも「その他」か? もしかしたら大半の人については、その原因はこれらのカテゴリーのどれかにあてはまるのかもしれないが、少なからずモンド氏のような人々においては、彼らの精神生活に照らすと、原因は複合的であったりして、このような大雑把な分類からは漏れてしまうのではないか。彼らの内面にどのような経緯があって(*1)、普段の生活、社会の規範から離れようとするに至ったのか、さらには、再び戻ってきた後に彼らにはどのような変化(とくに心中の変化)が生じているのか。探す側からすれば、そのようなことはどうでもいいのだろうが。

毎年の行方不明者は8万人以上という数字には少々びっくりした。これに前年までの人数が累積したら、世の中には何と行方不明の人々が多いのだろう、と(*2)。実際には行方不明者の大半(平成30年中はその86%)は、後に所在が確認されるそうだ。探して見つかったのか、本人自ら舞い戻ってきたのかまでは発表データでは分からなかった。さて、モンド氏は…。

(*1) 世間では「どのような心の闇を抱えて」と言ったほうが分かりやすいのかもしれないが、「闇」という比喩を用いること自体、すでに何かしらのバイアスがかかっているのではないか? 『モンド氏の失踪』を読むとそのように感じる。

(*2) 東日本大震災で行方不明となった方は、昨年時点でも依然2,500人以上いる。


〔参考〕

ジョルジュ・シムノン『モンド氏の失踪』長島良三訳
Georges Simenon, La Fuite de Monsieur Monde, 1945 

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