愛のさなかに人がまとうあの輝きは、その人の生涯が汚れたものであっても、曇りはしない。
『夜の終り』では、『テレーズ・デスケルー』から15年経った出来事が描かれる。テレーズは家族と離れ、メイドのアンナに世話を受けながらパリのアパルトマンで暮らしている。年齢は45歳だが心臓を患っており、死期が近づいている。その一方で目に輝きは失われておらず、小説では彼女の最後の恋愛が語られる。
『テレーズ・デスケルー』では、テレーズの内奥に潜む悪徳との葛藤が、ランド地方の神秘的な雰囲気を背景にして描かれ、小説の独自性が存分に際立っている。これに比べて『夜の終り』では、もっぱらアパルトマンの室内という身近な空間で物語が進行するため、テレーズの内面はもっと読者の近いところで語られている雰囲気が漂う。
また、前作では夫ベルナールを始め、テレーズ以外の登場人物がおおむね彼女の「外部」として描かれていたが、本作に登場する何人かの人物は──17歳になった娘のマリ、マリの婚約者ジョルジュ・フィロ、そしてその友人のモンドゥなど──、完全に外部とは言い切れず、テレーズの抱える闇と重なる部分を持ち合わせているように見える。あるいはそれは、日没前に放たれる緑閃光のように、死を目前にしたテレーズの魅惑に彼らはつかの間に眩んでしまったせいとも言えるかもしれない。
〔同じ作家の作品〕
フランソワ・モーリヤック『夜の終り』牛場暁夫訳
(春秋社「モーリヤック著作集第2巻」所収)
François Mauriac, La Fin de la nuit, 1935
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