物語の道筋がわかるようなわからないような割合に長いプロローグ(序幕)の後、「特別捜査官」だというヴァラスはどこへ行きたいのか、寒い朝に早くから街に出て、真っ直ぐに道を歩き始める。
ところが当てが外れたのかヴァラスは早々に道に迷ってしまう。一体どこに向かっているのか見当がつかない読者はおそらく、苛立ちを覚える。だが、そこを何とか辛抱して、ヴァラスが市街図を描いた掲示板を見つけ、最初の消しゴムを買い、ようやく町の警察署で警視(署長)と面会できるまで付き合えれば、読者にも、小説を最後まで読めるかもしれないという見通しは立つのではないかと思う。
舞台は架空の町だが、北海沿岸の港町、あるいは海からはまだ少し離れている運河沿いの町などの風景が思い浮かぶ。文中に示される通りの名や方角、位置などを丹念に組み立てられれば、手許で地図が作れるかもしれない。町全体の様子は漠然としていて主人公はそのなかを彷徨い歩くものの、街路名など目先の指標は具体的だったりするところなど、ビュトールの『時間割』に少し似ているような。
アラン・ロブ=グリエ『消しゴム』中条省平訳(光文社古典新訳文庫)
Alain Robbe-Grillet, Les gommes, 1953
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